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唐田えりか「復帰作」『の方へ、流れる』で感じた唐田のスゴさと「初日舞台挨拶」で印象に残ったファンの姿

 11月26日公開の唐田えりか・遠藤雄弥のW主演映画『の方へ、流れる。』。池袋は『シネマ・ロサ』にて初日舞台挨拶付の回を見た。

 そのため前半は作品そのものの感想。後半は、舞台挨拶についての感想を記す。

『シネマトゥデイ』公式YouTubeチャンネルより

 男女の奇妙な1日を描いた、純文学的な面白さのある作品だった。

⾥美と智徳のやり取りのどこまでがウソで、どこまでが本当なのかは最後まで謎のまま。

 唐田さんも遠藤さんもひどく棒読みに感じたが、これは監督の「感情を出さないで欲しい」という演技指導によるものだという。終始淡々としていて、正直なところキツいな、と思うこともあった。これが90分映画だったら耐えられなかったかもしれない。

 それでも耐えうるものにしたのが、絶対的な唐田さんの存在感。無言でBGMもなく長々と彼女が映るシーンがあるが、長さを感じさせずいつまでも見ていられた。件の感情のない淡々としたセリフも、謎の深みがあった。あまりしっかり聞いてはいけないな、と思わせる危うさがあった。

 ⾥美と智徳の会話の応酬についても、実に文学的。それというのも、発言の数々がいかにも「セリフ」なのだ。一問一答を基本に妙にトゲのあるヒロインのセリフなどにそれを感じた。

 それと同時に、ある種の答え合わせとして⾥美は文学をたしなんでいる描写があり、こういう細かい部分でキャラクターに説得力を与えていたのはさりげないながらも見事。「あ、文学少女なんだ。だからどことなく会話が文章的なんだ」と、馴染む。

 さて、奇妙な恋愛は突如何の前触れもなく終わりを迎える。

 智徳に明らかな恋愛感情を抱いた⾥美は、最終的に栞をプレゼントしようと思い立つ。これについては、「前に拾った栞=前の女」はごみ箱に捨てていたのが実に印象的だ。基本的に静かな環境音で進んでいただけに、あそこのごみ箱の音はなかなかにインパクトがあった。

 しかし、遠藤は無情にも前の女とヨリを取り戻したばかりか、「連絡先教えて?」と後に役者自身が苦言を呈する(※舞台挨拶にて)ような言動をとり、完全に関係は破綻。

 そして元の日常に戻っていくのだが、遠藤がヨリを戻した恋人は顔が写っているのに対して、唐田の男は映っていない。

 これは何を意味するのだろう?

 劇中の⾥美は多くの発言が本心ではない。ウソつきであることが明示されている。いわゆる「セ○レ」がいるとか、シャ○中のミュージシャンとも男女の関係があるとか……これらはすべて「ウソ」である、はずだ。

 しかし、「セ○レ」に関しては、正確には「愛のない関係」については、本当のことだったのかもしれない。「男」の顔をしっかり映さないまま夜の街へ消えていく⾥美の姿に、それを感じた。

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